大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)1188号 判決

上告人

木村哲吉

右訴訟代理人

遠藤剛一

被上告人

大津音之

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人遠藤剛一の上告理由第一点について。

民法一七七条は土地につき取得時効の完成によりその所有権を取得した場合にも適用されると解すべきであり(最高裁昭和三〇年(オ)第一五号同三三年八月二八日第一小法廷判決・民集一二巻一二号一九三六頁参照)、一筆の土地(甲地)の一部を自己所有土地(乙地)の一部であると信じて占有した結果これを時効取得した者が、その取得時効の完成後に甲地を買い受けた第三者との間における甲乙両地の境界確認訴訟の確定判決により、はじめて自己の占有した土地部分が甲地の一部であることを知つた場合であつても、右土地部分の所有権取得につき登記を経由しないかぎり、これをもつて右の第三者に対抗することをえないものというべきである。

本件において、原判決の確定した事実関係によれば、島根県隠岐郡西郷町大字東郷字石畑三五番山林一反は、明治二八年一〇月一九日以前から旧東郷村東郷部落のいわゆる共有の性質を有する入会地に属していたところ、昭和二三年一〇月一七日同部落から訴外原次芳に売却され、更に同二四年二月同訴外人から被上告人に売り渡されたものであつて、登記簿上は同二七年七月一六日東郷村名義に所有権保存登記手続がなされたうえ中間省略により同日被上告人のため所有権移転登記手続がなされたものであるというのであるから、たとえ上告人の主張するように上告人の祖父木村久四郎が、明治二八年一〇月一八日同県同郡同町大字東郷字権現谷九番山林三畝を買い受けたときから、これと隣接する前記字石畑三五番の一部である本件係争地を字権現谷九番の一部であると信じてこれを占有し、その後一〇年または二〇年の経過により本件係争地を時効取得し、その後木村久四郎の隠居により木村愛次郎が、同人の死亡により上告人が、順次相続により本件係争地の所有権を取得したものであり、また、上告人は、被上告人を被告として提起した前記各土地の境界確認訴訟において敗訴した結果、はじめて本件係争地が字石畑三六番に帰属すことを知つた関係上、それまでは本件係争地につき所有権取得の登記手続をすることに思い至らなかつた事情があつたとしても、上告人はその所有権取得につき登記を経ることなくして被上告人に対抗することをえないものといわなければならない。右のような場合には民法一七七条の適用は排除されるべきであるとする所論は独自の見解であつて、論旨は採用することができない。

同第二点について。

原判決挙示の証拠関係によれば、被上告人所有の前記字石畑三五番山林一反は、もと旧東郷村東郷部落のいわゆる共有の性質を有する入会地であり、その所有形態は講学上の総有に属するものであつたとする原審の認定判断は、これを肯認することができる。

また、原審の認定したところによれば、被上告人は前記土地が東郷部落の総有に属していた当時同部落の構成員であつたものであるが、入会部落の構成員は、入会部落の総有に属する入会地につき共有持分権またはこれに類する管理処分権を有するものではないから、もと入会部落の総有に属した土地を買い受けた者がたまたま同部落の構成員であつたとしても、不動産の共有者の一人が当該不動産を買い受けた場合とは異なり、右買主は、右土地が同部落の総有に属していた間にこれを時効取得した者またはその相続人に対する関係において、なお民法一七七条所定の第三者にあたるものと解するのを相当とする。したがつて、前記土地の一部である本件係争地につき上告人の祖父のため取得時効が完成し、上告人がこれを相続によつて取得したとしても、上告人はその所有権取得につき登記なくして被上告人に対抗することをえないものというべきである。

所論はいずれも理由がなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(小川信雄 岡原昌男 大塚喜一郎 吉田豊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例